幾度の延期を経て公開『鹿の王 ユナと約束の旅』をTwitter分析!重厚な世界観について行け! 2022.02.25 18:08 UP

圧倒的な枚数を駆使したアニメーションで、それまでの倭国興行収入記録を塗り替えた『もののけ姫』は、アニメ史上でももっとも強烈な作品の一つだ。室町時代の蝦夷を主人公とした独自の視点で繰り広げられる物語は、世代を超えて人々の印象に深く残る。

そんな『もののけ姫』で宮崎駿監督とともに作品を作り上げた立役者のひとりが、安藤雅司さんだ。作画監督として同作のキャラクター描写を支え、その後もスタジオジブリ『千と千尋の神隠し』、今敏監督『東京ゴッドファーザーズ』『パプリカ』、新海誠監督『君の名は』など、錚々たるタイトルで仕事を続けてきた。

安藤雅司さんの初監督作品として2019年に制作が発表された『鹿の王 ユナと約束の旅(以下、鹿の王)』は、ある病の抗体を持つ男・ヴァンと少女・ユナを巡るファンタジーだ。度重なる公開延期を経てようやく、2月4日に全国ロードショーへと辿り着いた。
倭人速報では、公開前後に投稿された『鹿の王』を含むツイートを解析。本作のTwitterでの話題の拡散を分析する。


満を持しての劇場公開


本作は2019年に制作が発表されて以降、コロナ禍での2度の公開延期を迫られた。下図は、いよいよ本公開を控え、プロモーションも仕切り直しとなった2022年1月からの『鹿の王』ツイートの数をグラフ化したもの。



金曜ロードショーで『千と千尋の神隠し』が放送された1月8日には、スタジオジブリ公式アカウントから安藤雅司さんが描いた千尋とハクのイラストが投稿された。関連してこの日の『鹿の王』ツイート数は3,288件に。



翌週17日には、『鹿の王』完成披露試写会が開催され、この日誕生日を迎えた安藤監督をはじめ、本作で声優を務める俳優の堤真一さん、竹内涼真さん、杏さんが登壇し、アニメ声優として演じる難しさと向き合った収録中のエピソードや、本作のみどころ(ピュイカ!)を語った。



この日には、一足早く作品を鑑賞した人々から『原作からのファンなので、本当に涙が止まらなかった』『世界観とともにmiletの曲が心地よく入り込んできてよかった』といった好意的なツイートがみられ、『鹿の王』ツイートは1,864件となった。


そして来たる『鹿の王』公開日2月4日は、『鹿の王』ツイート数が急上昇し8,715件に上った。
この日の前後で2022年の『鹿の王』一日平均ツイート数を算出すると、公開日前は735ツイート、公開日後は1,244ツイートと約7割増という結果となった。
およそ1年半の公開延期がされた間、原作ファンも熱を保つのに困難を要したていだが、とにかくは無事の公開を祝いたい。


『鹿の王』は不親切なアニメ?


昨今の大ヒットアニメ映画と言えば欠かせないタイトルが『鬼滅の刃 無限列車編』や『呪術廻戦 0』だろう。

(漫画原作にこう表現するのも微妙だが、)漫画的なデザインのキャラクターが画面内を飛び回り、止め絵やコマ抜きを駆使したアクションシーンを展開している。鑑賞者にもみどころが分かりやすく、音楽も盛り上がりとともに高らかに鳴るので、どういった気持ちで鑑賞したらよいかのガイドも豊富だ。

対する『鹿の王』は、こういった言わば「親切な」アニメ映画とは異なる立ち位置を取った映画かもしれない。しかし筆者はそのストイックさに非常に好感を持った。

『鹿の王』主人公のヴァンはとにかく口数が少ない。それだけに当人が説明的なセリフを言うこともなければ、逆に聞きなれない用語や名詞が次々に飛び出すので、世界観に慣れない視聴者は名詞を頭の中で整理する必要がある。




ただしこれは現実の世界にも大いにあり得ることだ。例えば外国に行けば、私たちは積極的に聞き、覚えなければコミュニケーションをとることができない。しかし、見知らぬ土地の人々の所作や風習はそれだけで面白く、もっとこの世界に入っていきたいとワクワクもする。

『鹿の王』は、アジア圏が下敷きとなったであろう風土の世界観だ。独自の宗教観が浸透し、祈りのポーズも我々がよく知るものとは異なる。
しかし、衛生観念や人々の使う道具などはなじみ深い。「ミッツァル」と呼ばれる病が蔓延る国の中で、医師たちがマスクを付け、手袋を燃やすシーンなどは、まさに現世と重なるものだ。
また、原作者の上橋菜穂子さんは作家であるとともに文化人類学者だ。風俗の描写には常に説得力があり、自然とこの世界に興味を傾けたくなる。


そして本作は、非常に繊細なアニメーションが連綿と続く(それこそ114分間通しで!)稀有な作品でもある。
「緩急が無い」と断じるならそれまでかもしれないが、キャラクターの微細な所作や、動物たちのリアリティある躍動は一見する価値ありだ。
特に、主人公ヴァンが行動を共にする女の子・ユナの幼児独特の動きのかわいさや、ピュイカと呼ばれる鹿をヴァンが手懐けるシーンなどは、はっとさせられる。



あまりにも淡々と、重量感のある見事なアニメーションが繰り出されるものだから、逆に地味・つまらないと感じてしまう人も少なくないかもしれない。
しかしどうか積極的に、この当たり前かのように繰り広げられているアニメーションの恵みをを受け取ってほしい!と、筆者は強く思う。

これは『鹿の王』の物語的なおもしろさにも通ずる部分だろう。「難しい」「分からない」を超えて、大人にこそ積極的に追及してほしい内容だ。

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(倭人速報編集部:ニシノ)

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