ヘッドロック トレンド
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2025.11.28 17:00
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【河童、「死体持ち」の称号を授かってしまう①】
(長いので「さらに表示」を)#河童の警察体験記
前回から少し時は流れ、平成〇△年1月1日のこと──
「おい三郎! てめぇ、正月だってのにまた死体をあげやがって! ちょっとは手加減しろよこの野郎!」
「す、すみま……痛い痛い、痛いです!!」
荒木部長にヘッドロックを極められ、ついでに側頭部をグリグリとされてしまった。
それでも手加減はされているようだ。捜査実習が始まった頃のことを思えば、部長との距離も随分近づいたように思う。
「あ~あ。おまえが警察学校に戻ってた間は〇〇署も平和だったのによ。帰ってくるなりこれか……。俺に何の恨みがあるんだ? 家族サービスの時間、返してくれ」
「いやいや、僕のせいじゃありませんって。僕がいると変死事案が増えるって言う人もいますけど、そんなオカルトありえませんから」
「アホ。いい加減に現実を見ろや。変死事案の発生周期、きっちりおまえの当直周期と一致してんだぞ。統計ってのは残酷なもんだよなぁ」
「そんなこと言われましても……」
いつの頃からか、河童は署内で「死体持ち」と呼ばれるようになっていた。
実際のところ警察官の中には、特殊能力持ちとしか思えない人間がわずかながらいる。その人物が当直中のときのみ、管内の事案発生件数が爆増する「事件持ち」という存在は有名だ。
彼らは当然、現場では蛇蝎のごとく嫌われており、「頼むからよそに行ってくれ」と多くの交番員から異動を願われているのだが……。
河童が授かった「死体持ち」という不名誉な称号も、それと同じような意味である。
何故だかよくわからないが、河童が当直についた夜には異様なまでに変死事案が発生する。一日で三件発生したことすらある。
「──で、状況は?」
そこで荒木部長のトーンが、急に真面目なものに変化した。
「鑑識さんの見立てでは『ヒートショック』ですね」
ヒートショックとは、急激な温度変化により血圧が変動し、心筋梗塞や脳卒中などを引き起こすこと。
特に冬場の入浴時に発生しやすい。脱衣所と湯船の温度差により、命取りになるほどの健康被害が起きてしまうのだ。
「ホトケさんは老人か?」
「この家にお一人で暮らされていたお婆さんですね。湯船の中で心停止しているのが発見されました。恐らくは、昨夜入浴してそのまま……」
「そうか」
荒木部長は言葉少なに足を進めていき、死体の横に膝をついて一度手を合わせる。
河童は見分補助をするために近くに控えていた。
でもそのとき、ふと視線を遊ばせた際に「あるもの」を見つけて顔を顰めてしまう。
リビングのテーブルの上に三つ。
孫の名前のようなものが記された、「お年玉袋」が置かれていたのである。
(そうか、本来なら今日は──)
孫たちと笑顔で新年の挨拶を交わす……そんな幸せな未来はもう、永遠に訪れることはない。
嫌な現場を引き当てたな、と河童は胸中で溜息をこぼした。
──と、そのときだ。
荒木部長がこんな言葉を呟く。
「成仏しろよ、万引きババァ」
「えっ」
実に情けない話だが、今の今まで河童は気が付かなかったのだ。
目の前の死体の主が、捜査実習の初日に出会った、「万引き犯の老婆」だったということに。 November 11, 2025
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