境界線の向こう側の君たちへ

【臨界都市NOXIA】
#VRC_NOXIA

日常というものはあまりにも脆く、そして残酷なほどに平穏だ。

HMDを外せば、そこには見慣れた天井があり、静寂と虚しさがある。

でも、俺の頭の中はまだ、あの鉄錆だらけの匂いの中にいる。

そこは、物理法則がねじれ、空が極彩色に焼けただれた世界──臨界都市NOXIA

「迷い人」として、その地に降り立った。

目の前にいる、キメラ因子を持つ亜人間──NOAと呼ばれる組織の者たちは、俺たちを「変異点」から迷い込んだ弱き者、として扱いながらも、どこか愛おしむような目で迎え入れた。

彼らは知っているのだ。自分たちが、もう二度と「こちら側」には帰れないことを。そして、俺たちだけが「帰るべき場所」を持つ存在であることを。

俺たちの護衛──いや、案内を務めてくれたのは、ロレンと毒島という二人のキメラだった。

ロレンくん。磁力を操る彼は、幼さの残る少年の姿をしながら、甲斐甲斐しい性格の持ち主だった。俺たちのことを献身的に見守ってくれていた彼のまっすぐな瞳と姿は、過酷なこの世界にはあまりにも純粋に映った。

毒島さん。ヒョウモンダコの因子を持つ彼女は、その力強い見た目とは裏腹に、驚くほどに繊細で、愛に飢えた少女だった。
他人からの拒絶を恐れ、それでも誰かと繋がっていたいと願うその瞳は、不安定に揺らめくこの都市の空のようだった。

俺はロレン君について、任務という名目のもと、崩壊した都市を駆けた。

俺はいつしか、自分が「客」であることを忘れかけていた。

この歪で、悲壮的で、なにより美しい世界の一部になれたような気がしていたのだ。

果敢に俺たちの先陣を務める裏で、こっそりと一服するマナさん。

俺のおふざけでネットミームを覚えさせられる、インコのキメラ、ハッピーの無邪気な声。

博士の狂気と知性が入り混じる一人演説会。

それらすべてが、退廃したこの世界で、確かに"生きて"いた。

「もう、迷い込むなよ」

その言葉は、拒絶ではない。純粋な優しさと、寂しさを感じた。

俺たちがこの世界に留まれば、やがて彼らと同じように戻れなくなる。

彼らは、これからも瓦礫に埋もれたこの世界で、終わることのない任務を果たし続けるというのに。

ホームワールドに戻された俺は、ボーと立ち尽くすことしかできなかった。

胸に残るのは強烈な余韻と、喪失感と、置き去りにしてきた、みんなへの少しの罪悪感。

これは、記録。
交わることを望まれない世界線で、懸命に「生」を燃やす、愛しき隣人たちの記憶。

夜の隙間に奇妙な色を見つけたら、俺はまた思い出すだろう。

そこで足掻き、生き続ける彼らのことを。 November 11, 2025