優しい劇団の大恋愛
『なるべく終わらないカーテンコール』

新年早々、やります！！
初関西！たのしみです！！ https://t.co/5Ut7OLVDwC November 11, 2025

おばあちゃんに会いに行った。
素敵なホームの中はクリスマスの飾り付けがとても温かくて、外の寒さなんて微塵も感じなかった。

久しぶりのおばあちゃんは、
知らない間にすっかり白くなっていて、少し嫌な動悸がした。

昔から、おばあちゃんの友人はみんな、「お喋りで陽気な人気者だ」と口を揃えていう。
近所のカラオケ大会ではマイクを片手に踊りながら歌う。
自慢じゃないけど、私の底抜けの陽気さはきっと、おばあちゃん譲りだ。

おばあちゃんは、北の港町の出身で、若い頃はイケイケのダンシングクイーンだったらしい。

アメリカの海兵さんが集まるホールで
いつも注目の的だったと言っていた。
ひっきりなしにダンスに誘われて、
ルンバを踊って見せたという。

おばあちゃんは大恋愛をして、
おじいちゃんと結婚したらしい。
新聞記者だったおじいちゃんに惚れて
追っかけ、おしかけ、女房になった。
おじいちゃんの若い頃は、俳優顔負けのイケメンだった。
白黒写真と遺影のおじいちゃんを見比べても、似ても似つかないけれど。
おばあちゃんは、今も昔も変わらない。

おじいちゃんとおばあちゃんは良く言い合いをしていた。
毎日、あれこれ小さな言い合いをして、でも、毎週モーニングを食べに行った。
豆菓子を食べながら時代劇を一緒に見ていた。
おじいちゃんはおばあちゃんにだけ特別にマグロの山かけを作っていた。
私は小さい頃、よくそれを横取りしていた。

おばあちゃんはファンキーな人だ。
タバコも吸ったし、お酒もよく飲む。
どこにいくにも、毎日、お化粧をしていたし、口紅はピンクや赤色を好んでいた。
髪はいつも茶髪のパーマ。
背筋が曲がらなくて、よく歩いた。
韓ドラの俳優にガチ恋していた。
リハビリにイケメンがいると喜んでいた。
昔、お正月の集まりで、お酒をあげたら、飲みすぎて、道で転んで、額を5針ほど縫った。

おばあちゃんは、私の事を可愛がった。
初孫だったし、幼い時は世話をしてもらっていた。
私がご飯中に、アイスクリームの販売車が来ると、「アイスを買って」と強請るから、毎回、一緒に買いに行ってくれた。
保育園のお迎えに来てくれた時は、「ママじゃないとイヤだ」と泣いて我儘を言って困らせた。
大人になってからも、おばあちゃんの家から帰ろうとすると、私の姿が見えなくなるまで道路に立って見送ってくれた。

そんなおばあちゃんに会いに行かなくなったのは、私が東京に出てからだ。
忙しくて、お金もなくて、中々会いに行かなくなった。
そうこうしているうちに、おばあちゃんは体調を崩してしまって、今に至る。

少し物忘れはするけれど、相変わらず元気だったし、私が行けばあれやこれやお菓子をくれようとした。
だから、大丈夫だと思っていた。
これからもずっと、変わらないと。
そんなわけ無いのに、現実から目を背けていた。

お母さんから電話があって、
意識がある内に話したければ、できるだけ早くいらっしゃいと言われた。
慌てて飛んで行った。まさかと思って。
でも、やっぱりとも思って。

おばあちゃん、真っ白だった。
いつの間にこんなに、白くなったんだろう。
私が来たのを少し喜んで、でも、ほとんど会話らしい会話は出来なかった。
カラカラ笑う、明るい姿は変わらないけど、笑うと苦しそうにして、暫くすると眠る様に意識を失った。
でもまた目を覚まして、暫くすると眠る。

その姿が辛くて。
私はどうしてもっと早く、何かしなかったのかって。
出来ることはたくさんあったのに。
もっと会いに行けばよかったって。
痛くて、痛くて。辛くて。
何の恩返しもできない様な人生を選んだ自分が許せなくて。
逃げ出したい気持ちになった。

でも、ふと、おばあちゃんが聞き覚えのあるメロディを口ずさみ出した。

東京〜、ガレージ〜

東京ガレージ？聞いたこともない歌詞。
でも、確かに聞き覚えのあるメロディ。

お母さんが、「ブルースじゃなくて？」と聞くと、「そうだった！」と笑って、歌い続けていた。
本当に涙が出そうな程綺麗な歌声で、
苦しいはずなのに歌っていた。

きっと、機嫌が良かったんだと思う。
会話は上手に出来なくても伝わる。
おばあちゃんは昔から、機嫌がいいといつも鼻歌を歌うから。

今までに聞いたどんな歌手のどんな歌より素敵な鼻歌だった。
私は、一生忘れない。

残された時間にできる事は限られている。
私に一体何ができるのか。
後悔してもしきれないけど。
限りある時間を大切にしたい。 November 11, 2025