閉塞感 トレンド
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2025.12.05 01:00
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🎂××NOISINESS BIRTHDAY
理希は、共用スペースのソファに突っ伏していた。
照明は落とされ、壁際の間接照明が柔らかい影を作っている。
机の上には一枚の歌詞カード。
白い紙に黒く並んだその文字列が、まるで理希の内側を映しとったように生々しく、気味が悪いほどだった。
——Noise in my head.
——I just wanna break it down.
何度目を通しても、鼓膜に刺さってくるのは“自分の声”だった。
誰にも見せたくなかった部分。
完璧に隠し通すつもりだった場所。
「リッキー、顔、死んでるよ?」
不意に横から声が飛んできて、反射的に顔を上げる。
アイルが、ドリンク片手にソファの背に肘をかけて覗き込んでいた。
「……」
「お〜い、リッキー?」
「……この曲」
「……ん?」
「この曲、なんで俺なんだ」
低く吐き出した問いに、アイルは「さあ」と笑った。
「でも、ぴったりじゃん。
内面ぐっちゃぐちゃで、耳塞いでるくせに言い返したくて仕方ないとことか」
「バカか」
「え、違うの? 俺はてっきり『リッキーの脳内そのままシリーズ』かと」
理希は眉をひそめたまま、もう一度歌詞カードを睨む。
“救い出してほしい希望は、自分の胸の中にだけ光る”
——それは、ずっと信じてきた言い訳で、同時に最後の砦だった。
誰に言われたわけではない。
両親に求められたわけでもない。
勝手に天才の兄と自分を比べて、劣等感を積み上げ続けて、学校をやめた。
社会から逃げて、自分の殻に引きこもった。
なのに、今。
アイドルになって、理想の仮面を貼りつけて生きている。
笑顔の裏で、ずっと自分にだけ厳しくして、仲間に毒を吐くことでバランスを取ってきた。
でもこの曲は、その仮面の奥まで覗いてくる。
もう、バレているのか?
そんな恐怖すらある。
「……こんな曲、歌えるかよ」
「えぇ? なんで?
歌えばいいじゃん」
アイルが即座に返す。
笑っていた目が、ふいにまっすぐになる。
「とんがった誰かさんにぶっ刺さる歌詞だと思うよ?
抑鬱された自分への自己嫌悪、悩みと閉塞感。
リッキーの本音なんて、みんなは知らない。
悩んでるどこかの誰かが、自分に向けた曲だって受け取るんだ。
それでいいじゃん」
「……」
「俺だけが知って……あ〜ううん、タカくんとユーリもお見通しだよね〜。
だから、さ。Luxarionの四人だけの秘密だよ。
誰かのためとか、ファンのためとか、そんなんじゃなくて、これはリッキーのための歌なんだよ。
吐き出せばいーよ。
『黙ってくれよ…Noise!』って、大衆の前でぶっちゃけちゃえ☆」
理希は目を伏せた。
風天の言葉は、いつだって茶化す口調とは裏腹に、言いたいことはまっすぐで、正しい。
それが腹立たしくて、でも少しだけ、ありがたかった。
「………お前って、ほんとむかつくんだよな」
「どういたしまして。それと……」
「?」
「誕生日おめでと」
最後だけ、少し声のトーンが柔らかく落ちた。
冗談でも茶化すでも照れるでもなく、ただそこにある当然のような言葉。
理希は目を伏せたまま、わずかに眉を上げた。
「……誕生日」
「まさか、忘れてた?
リッキーが頭を抱えてる間に日付が変わってるんだよ、ほら」
アイルが日付表示もあるデジタル時計を指さして、肩をすくめた。
「お祝いはまた後でね!
俺、リッキーがステージでぶちかましてくれるの、めっちゃ楽しみにしてるから♪」
彼はそう言って、ソファの背を軽やかに飛び越えて、行ってしまった。
理希は残された歌詞カードを手に取って、ゆっくりと目を閉じた。
心の中で、また“あの声”が響いていた。
でも今なら、少しだけ、抗える気がした。
——突き進め。雑音を掻き消しながら。 December 12, 2025
@Segah02457547 理解のある彼君は若年層から急速に消えているのだろうか。女子小中高生が不幸せ閉塞感を感じやすくなったのか。どちらにせよ自分の機嫌は自分で取るしか無い December 12, 2025
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