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発火点
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2025.11.28 14:00
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やはり高価であるにもかかわらずに店頭でも売れゆくレヴィ=ストロースの『野生の思考』。再入荷。木村勇也くんの好きな本の1冊で僕も大変に感銘を受けた思考の結晶です。これも人生で一度は読んでおいてよいと思う。
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野生の思考
クロード・レヴィ=ストロース
大橋保夫 訳
みすず書房
5280円税込
『野生の思考』La Pensee sauvageは、1960年代に始まったいわゆる構造主義ブームの発火点となり、フランスにおける戦後思想史最大の転換をひきおこした著作である。
Sauvage(野蛮人)は、西欧文化の偏見の凝集ともいえる用語である。しかし植物に使えば「野生の」という意味になり、悪条件に屈せぬたくましさを暗示する。著者は、人類学のデータの広い渉猟とその科学的検討をつうじて未開人観にコペルニクス的転換を与えsauvageの両義性を利用してそれを表現する。
野生の思考とは未開野蛮の思考ではない。野生状態の思考は古今遠近を問わずすべての人間の精神のうちに花咲いている。文字のない社会、機械を用いぬ社会のうちにとくに、その実例を豊かに見出すことができる。しかしそれはいわゆる文明社会にも見出され、とりわけ日常思考の分野に重要な役割を果たす。
野生の思考には無秩序も混乱もないのである。しばしば人を驚嘆させるほどの微細さ・精密さをもった観察に始まって、それが分析・区別・分類・連結・対比……とつづく。自然のつくり出した動植鉱物の無数の形態と同じように、人間のつくった神話・儀礼・親族組織などの文化現象は、野生の思考のはたらきとして特徴的なのである。
この新しい人類学Anthropologieへの寄与が同時に、人間学Anthropologieの革命である点に本書の独創的意味があり、また著者の神話論序説をなすものである。
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彼の考える「ブリコラージュ」という思考の作法は、たとえば彼の続く神話の論理を解読するための神話の構造分析の作法から、その後の芸術、仮面の変形・変換関係を読み解く書物である『仮面の道』に至るまで終生続く。ものを作るというのはゼロからイチの創発なのでは本来的にはない。それはかならずや素材を必要とし、素材はこの世界にあり、それぞれの制作者たちは、ある有限な素材の集合からなにかを変換的に産み出す。それはたとえば形のない神話のようなものでもそうだし、その神話を成り立たせるところの人類における思考、それは無意識的なるものを多分に含むものなのだが、そうした目には見えないものも思考であり、それもまた野生の思考として息づく。果たしてその思考たちはどのように思考するのか。
神話論理におけるレヴィ=ストロースは思考の主体を人間において神話を考えることはしない。すなわち神話たちには神話たちにの固有の変換、思考体系があるのであり、神話たちが主語となり、人間たちのあずかりしらぬところで神話は互いに考え合うのだということを、レヴィ=ストロースは語る。神話はその意味で人間の主体的で管理的な制作物ではない。神話には神話に固有のロジックがあり、それはたとえば絵画には絵画にの、音楽には音楽にの固有の論理があり思考があることと相同的である。人間が作り出すものを人間というものの主語のもとに置く思考は彼にはない。人間とはそれが生まれるいうなれば媒介する場所であるとする言えるかもしれない。多数の固有の思考を考えるうえで巨きな財産を残してくれたレヴィ=ストロースの思考に僕は今なお大いなる感銘を受けている。ベイトソンと並んで。
百瀬雄太 November 11, 2025
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